さて、私はおっかなびっくり
横浜中華街の中の大きな豪華なお店に入り
店員さんの案内の元、エレベーターに乗り込んだ。
着いたところは何階かは覚えていない。
たぶん2階か3階だったろう。
そのお店は全部で5階くらいまであったように記憶している。
エレベーターのドアが開き視界が開ける。
同時に、ピアノ演奏の音が耳に入ってくる。
落ち着いていて、それでいて優雅さを感じさせる曲だ。
照明も全体的に暗めに押さえられていて、
それでいて食事の席の上にはスポットライトがあたっている。
「やばい!」
私の防御本能が危険を告げる。
私の支払い能力を超えたところに迷い込んだのでは!?
そんな戸惑いを胸に抱きながら
心臓の高鳴りと共に案内された席に腰を降ろす。
ピアノの美しい奏よりも
不安に包まれた心臓の音が大きく聞こえる。
美しい女性の店員さんが近寄ってくる。
メニューを私の前に差し出し
「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」と
心のこもった、優しいおもてなしの言葉を私に告げる。
しかし、私の心の中では
「覚悟をお決めください」と言われたような感覚だった。
ええい、ままよ!
ここに至るも何かの縁。
最悪の場合でも、クレジットカードという味方もある。
お高いコース料理しか並んでいないメニューでも
モアベター(一番安いコース)を選択して
浪費ではなく美食の体験として
いい思い出に変えてやろうと腹をくくる。
開き直ってメニューを一気に開く。
「さあ、かかってきやがれ!」
「・・・・?」
「!!!」
そこで私の目の前に現れたものは!
店の入り口で見たのと同じ、3ケタの値段の麺類だった。
「このお店でこんな安いの食べていいの????」
そんな戸惑いが頭の中で錯綜する。
だが、これは事実だ。
私は私の被害妄想に踊れされていただけだったのだ。
横浜中華街のお店は
良心的で、味のプロで、おもてなしのプロだった。
先ほどの美しい女性の店員さんに手を上げて目配せし、
千円に満たない、それでいてとてもうまそうな椒肉絲麺と
生ビールを注文する。
美しい店員さんは誠意ある笑顔で注文を聞いて
優雅な足取りでオーダーを通しに行った。
安心と共に視界と聴覚が開けてくる。
店内の照明は落ち着いた暗さで、
まるで映画に出てくる外国のバーのようだ。
それでいて、料理が運ばれてくるであろう目の前のカウンターテーブルには
まさに料理が配膳される正面のテーブル上にスポットライトが上品に照らしている。
入店した時と変わらぬ癒しのピアノ演奏が
ピアノ奏者の背中越しにやさしく伝わってくる。
まさにVIP空間である。
さすがに一人でカウンターにいるのは私一人だけだったが、
周囲のテーブル席では、食事と酒を嗜んでいる年配の紳士淑女が多い。
そんな中にジーンズと半袖ポロシャツの若造(当時w)がひとり。
俯瞰的に見れば、なかなか絵になる光景かもしれない。
さっそく生ビールが運ばれてきた。
私の喉はもうカラカラである。
テーブル上でスポットライトに照らされた私の生ビールは
まさに黄金色の輝きを放っていた。
その輝きを一気にのどに流し込む。
まさに至福の時間。
高級な店だということも、TPOとやらも忘れ
「乾杯」の字のごとく、私はジョッキを空にした。
もう、幸福しかない。
まもなく運ばれてきた椒肉絲麺もまた、
中華鍋で熱せられたであろう上質な脂と湯気が
ライトに照らされ甘美な輝きと香りを放っている。
2杯目のビールを頼みながら
メインディッシュ(ラーメンw)に向かう。
・・・・・・・・・・・旨い。。。。。
火傷ぎりぎりの調理された具の温度。
美味な油をまとった小麦の麺。
その熱さは、一瞬ですべてを食べつくすことの無いように
配慮されたブレーキの役割なのかもしれない。
熱いラーメンと冷たいビール。
まさかの庶民的値段で
まさかの高級料亭並みの洗練された空間のなかで
本場中華料理が丼一杯に濃縮された料理を味わい
この地、横浜中華街でなければ出会えることのなかったであろう
味覚の満足と充実感、高揚感を味わいながら
この日のめぐり合わせの幸運に感謝しつつ
店を後にし、明日に備えた休息を得るべく
宿に向かう。
きりたん
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