その男は1979年に生まれた。
両親は団塊の世代で高度経済成長の時代を生き、働くことが人生の意義で働けば働くほど給与や役職が上がった時代である。それに伴って幸せのバロメーターも比例して上がっていく。そんな時代であった。
終身雇用や年功序列
が当たり前で制度として成り立っておりそんな中人生の勝ち組になるためには、
偏差値の高い高校に進学し一流の国立大学に入り名の通った超有名な上場企業に就職するか公務員になるのか勝ちパターンのセオリーだった。
男の父はそのところでとても苦い経験があったのだろう。遠洋漁業のモールス信号通信士として働き外洋に出て2〜3年は帰国することがないブルーカラーの仕事であった。時代の潮流は早く、通信技術も暗号技術も劇的に進化しておりモールス信号での通信など過去の遺産にありつつあった。現代でもAIやIotが進化し人から奪われてしまうと言われている職業がある。技術の進化で人は仕事をなくす。これは時代が変わっても変わらない事実なのかもしれない。そんな経験から男の両親は男に安定した職について欲しいと切望したのだろう。大企業の社員か公務員になれば人生は安泰。そのためには良い中学、高校に進学し一流の大学に進学することが必須と考えていた。その時の時代の常識から未来を判断していたためまさか時代がこんなに変化していくものとは思いもしなかっただろう。
「親心」
といえばまさにその通りだが子供に苦労を味わわせたくない。自分が苦労した思いをさせたくない。そんな思いからか、男の人生のレールをひきその上を進ませるために必死になっていた。
しかし男にとってはそれは苦痛でしかなかった。
幼少期の頃から塾に通わされ春は春季講習、夏は夏期講習、冬は冬期講習と休みがなくなって勉強漬けの幼少期を送らねばならなかった。求められる成績にも際限がなかった。全国一斉模試を受けさせられ全国で自分が上から何番目にいるかリアルな数字で示される。
全国で1番になるまでは承認されずもっと努力をしなければならない。
努力が足りないと叱責されるからである。
親の愛を受けたい一心で必死に男は努力をした。しかしどれだけ努力をしても上には上がいるものである。全国で1番にはなれるはずもなく1番でなければ愛されないという間違った信念を抱き結局は結果が全てで、どれだけ努力しても結果が伴わなければ何も得られないと言う偏った考えが身についてしまった。
この頃から
人を信用することもなく親を社会を恨み感情的に歪んだ自尊心を抱えている
のであった。
ただおみくん
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