日本を出て20時間余りが経とうとしている。
ようやく、目的地のホテルへと落ち着いた。
さすがに疲れていた。
荷物を置き、上着、ズボンを脱ぎ捨て
ベッドの上に倒れ込む。
冷たいビールが飲みたい。
だが、ここはイタリアの地。
当然ながら自宅ではない。
冷蔵庫にビールはない。
というか、イタリアのホテルに
部屋の冷蔵庫があるのかもわからない。
このまま眠りたいとも思った。
だが、まだ眠るわけには行かない。
とりあえず、現状を把握しなくては。
現地は今何時なのだろうか。
外はやたらと明るい。
季節は7月中旬、イタリアも初夏である。
日本との時差は17時間。
たしか、今は夜の8時ころ。
時差ボケはどうなのか。
疲れてはいるが、徹夜明けのような眠気ではない。
なんとか活動はできそうだ。
妻にも体調を確認する。
妻も私と同じような状態のようだ。
ここでふと気づいた。
これは新婚旅行なのだが、
ろくに話をしていないw
そういえば、夕食をとらなければならない。
夕食をとるには、当然ながら
ホテルを出て近隣のレストランに行かなくてはならない。
ルームサービスという手もあるのだろうが、
イタリア語は分からないww
電話では身振り手振りも伝わらないであろう。
このままではらちが明かない。
重い体を起こし、脱ぎ散らかした服をもう一度着る。
「飯食いに行こう」と妻を促す。
いざ、外出しようとしたところで妻が口を開く。
「この辺、店あるの?」
「わかるわけないだろ!!!!!」
記念すべき海外での夫婦喧嘩一回目であった。
東京はおろか、ここはイタリアのローマである。
近辺にどんな店があるかなんてわかるわけがない。
ここは首都ローマという観光地である。
外に出て少し歩けば何かしらの店はあると思われるため、
散歩がてら店を探して食事を摂ろうという意味を込めての
「飯食いに行こう」という私の言葉だったのだが、
「この辺、店あるの?」という
少し小馬鹿にしたように聞こえた返答に
さっそく私がキレてしまったww
ここで、私の脳裏には
「成田離婚」という言葉が躍り始める。
「ああ、なるほど」と妙に得心がいった。
お互いに勝手の知らない土地で二人きり。
夫婦同士の自我が直接ぶつかる初めての時間なのだ。
恋人同士の時は、互いに恋をしていたのだろう。
この人と一生生きていこうと心に誓ったりもしたであろう。
結婚式の時には、互いを愛していたはずである。
日本を飛び立つときは
まだ見ぬ旅路に心を躍らせていたはずである。
それなのに、
相手の嫌な一面が
オブラートにもカーテンにも遮られずに見えた瞬間、
感情が一気にマイナスに傾いてしまうのは今思えば新鮮だった。
これが積み重なって、
日本に帰ったときの
成田空港での離婚となるのだなと、
一瞬で「成田離婚」という4文字熟語の真の意味を理解した。
で、若干の口論を交えながらも、
恋だ愛より勝る生命維持のための食事をするべく
ホテルから、二人揃って、無言で外出を果たした。
きりたん
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